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入学準備 ページ6






入学式を目前に、Aの入学準備は全くと言っていいほど終わっていなかった。ならば、することは何かと言われたら、もちろん必要なものを揃えることだ。制服に学校指定の鞄、新しいノートに予め買うようになっている教材など、車で回って掻き集めなければならない。
すっかり暖かくなり桜が咲き始めていて、街全体が新生活を祝う様子に胸が高鳴りそうだった。

「そこ、右に曲がって。」

怖い男が隣にいなければ。
ナビゲートなら助手席でも良さそうな気がするが、ゾムは何故か後部座席のAの隣に座っている。話すような内容もないし、そもそも話しかけたらまた睨まれそうで怖くて話しかけようなんて気すら起きない。仲良くしろと言われたって、そんなのお互いに仲良くなるつもりじゃないと仲良くなんてなれるわけがないのだ。Aの住んでいた地域は、ほとんど皆家族みたいな状態でずっと育ってきたため、友達のなり方なんて今更もう分からない。いや、友達になりたい訳ではないのだけれど。

「⋯⋯ついたで。」
「は、はい。」
「⋯⋯。」

無言で促されるまま車を降りると、そこは学生服を取り扱う仕立て屋だった。先に店に入るゾムの背を追いかけるようについて行く。お店の人は丁寧で、身体のあちこちを採寸すると今のサイズはこうだけど、きっとまだ背が伸びるだろうから大きめで仕立てた方が良いですよ、と説明してくれた。試着をしてみて、鏡を見てみれば都会っぽいオシャレなデザインの制服に期待が込み上げる。徐々に緩む頬を堪えることが出来ない。
そこで、ふと気になった。本当にこれが似合っているのか、客観的な意見としてはどうだろう。自分と他人が見ている状態が同じとは限らない。生憎、ついてきている人がゾムしかいなかったため、それ以外の選択肢がなかった。

「あの、どうですか?」
「あー⋯⋯。」

ゾムはほんの少しだけ、身体を左右に揺らしていた。それが何を意味しているのか、Aには分からなかった。フードの影に隠れているから、本当にAの制服姿を見ているかどうかもいまいちよく分からない。




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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home  
作成日時:2024年3月12日 22時

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