付き人 ページ5
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「コイツな、ゾム。仲良くするんやで?」
Aがおずおずと頭を下げると、ゾムと呼ばれた男と目が合った。ギロリと蛇に睨まれているかと錯覚するような鋭い視線に、心臓が縮み上がる。思わず一歩後退りした。仲良くしろって言われたって、こんな調子じゃそんなの無理に決まっている。
「⋯⋯ちす。」
男がボソリと挨拶らしき音を発した。
付き人、としか紹介されなかったから、このときAはゾムのことをコネシマの付き人だと思っていた。それなら、そう仲良くする必要もないんじゃないかな、なんて思いながら。こんなに怖い人とわざわざ関わることもないだろう、と。
「コイツ見た目怖いかもしれへんけど、腕は確かやから!」
コネシマはゾムの背中をバシバシと叩きながら笑ってそう言った。あー、はは、とバレバレの愛想笑いをして、コネシマの話していることの文脈に違和感を持つ。
「お前がここに戻ってきたからには、命を狙われることもあるやろうし、大人しくコイツと行動してくれ。」
「え?」
「うん?」
「え、それって⋯⋯?」
「おん、怖いかもしれんけど組長の娘ってことで何があるか分からんから。一応、な!滅多にないことやけどな?」
「あ、あー⋯⋯。」
「うん。」
「⋯⋯え、えっと、あの、付き人って⋯⋯?」
「うん、お前の。」
「あっ⋯⋯。」
Aはようやっと先程コネシマが言った"仲良く"の意味を理解した。この人と、なるべく一緒にいて何かがあったときには守って貰えよ、と。そういうことだったのだ。にわかには信じがたいけれど。
「よ、よろしく、お願いします⋯⋯?」
Aがそう言うと、コネシマはなんで疑問形やねん!と笑っていた。
そっとフードの奥を見つめる。すると、再びギロリと強い眼力にその場で磔にされた。もちろん、本当に磔にされたわけじゃないけれど、そのくらい全身が緊張で強ばったのだ。
怖い。仲良くなんて、本当にやっていけるのだろうか。そのうち、石にされちゃうのかも。
この日から、蛇はお嬢付きの蛇となった。しかし、フワフワでファンシーなお部屋の中で、Aはひとりぼっちを強く感じた。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時