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既視感 ページ40







夏は死に至り、夏休み終了まであと三日の猶予を残した秋口のこと。盆を過ぎてから茹だるような暑さはなくなったものの、続く残暑が尾を引いている。朝晩が涼しくなってきた分だけ、寝つきがよくなった。それすらも、嬉しいような、ずっと続いて欲しかったような矛盾した感覚がある。夏の終わりは、どの季節の幕引きよりも淋しさが際立つ気がした。
その日はデパートに行った帰りだった。コツコツと進めていた課題もラストスパート。新学期に備えて必要なものを買い足して、ゾムと他愛ない話をしていた。ちょうど前にアイスを買った自動販売機の前に差し掛かるとき。

「おい、女子高生連れのパーカーの男。お前だろ?」

現れたのは、ガラの悪い男五人。そのうちのリーダー格らしき金髪パンチパーマの男が話しかけてきた。Aは、その光景に既視感を覚えていた。

「は?」
「とぼけてんじゃねぇよっ!俺らの後輩ボコしたの、お前らだって知ってんだよっ!」

ゾムが低い声で威嚇したのにも関わらず、男はそれに気付くことができなかったのか、はたまたそれすらも大したことはないと見誤ったのか、恐ろしいことにゾムに食ってかかる。Aはゾムが前に出るのと同時に背中で守られていたが、以前の悲惨な光景を思い出してやめた方がいいですよ、と声をかけたいくらいだった。きっと、言ったところで煽りになるに決まっているのだが、それだけ相手の身を案じているのだ。

「そんな雑魚覚えてへんわ。」

鼻で笑って、ゾムはそう言った。結構長めに黙っていたから、もしかしたら本当に考えた上で本当に覚えていないのかもしれない。

「お嬢。そこおってな。」

パンチパーマの男がゾムに拳を振りかざす。それを最小限の動作で避けると、ゾムは男の顔面に鋭いパンチを撃ち込み、ふらついたところをそのまま引き摺って例の路地へと突っ込んだ。それに続いて一瞬怯んだ他の男たちもゾムに襲いかかる。いくらゾムが強いとはいえ、今回は五人相手。大丈夫なのだろうか、と路地を覗くか覗かないか悩んでいたとき、ものすごい悲鳴が響き渡った。
ぎゃあああ、とか、やめてくれぇぇ、とか、あと、逃げんじゃねぇよ、ははははは、とか⋯⋯。
あ、これ見ない方が良いやつだ。Aの判断は早かった。路地を覗かないように背を向けて、叫び声は聞こえないフリをする。




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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home  
作成日時:2024年3月12日 22時

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