迷惑 ページ38
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Aは、ことある事にゾムにプレゼントを渡した。前回のようにお詫びやお礼とかではなく、出かける度に何かしらを持って帰ってくる。ふわふわのうさぎのついたキーホルダーや、シンプルだけど使い勝手の良いペン。シトラスの香りのハンドクリームに、神社で買った御守りなど、その他にもいくつかプレゼントした。
その度に、ゾムは身につけるものがどんどん増えていく。うさぎのキーホルダーが似合うような人ではないのに。指先からシトラスの甘くて爽やかな匂いがするのも。
「いらん。」
何度目かのプレゼントを渡したとき、ゾムは困ったように少し溜めてそう言った。ラッピングされたプレゼントは、ゾムの手によって阻まれる。
「え、あ⋯⋯。」
夏も終盤だというのに、太陽から隠れるように木陰に潜む蝉の鳴く声がやけに耳に残った。地上での短い生を、蝉なりに真っ当に謳歌しているらしい。
Aは言葉が出なかった。茶化すような態度ではなく、本当に迷惑そうに言われてしまったから、どうすれば良いのか分からなかった。気を許しすぎてしまったのかもしれない。そんなふうに思えた。
「あ、ご、めんなさい。迷惑なこと、して⋯⋯。」
差し出した手を引っ込めようとしたとき、優しい力で掴まれる。振りほどこうと思えばすぐに離れてしまうくらい、壊れ物を触るような力加減だった。
「そんなふうに言うてへんやろ。」
フードの奥の瞳が、真っ直ぐAを見つめている。それは酷く真剣な顔で、怒りすら滲んでいるように感じた。
「でも⋯⋯。」
涙が滲みそうになるのを、横を見て堪える。
強く怒鳴らないためだろうか。ゾムはふうと息を吐いた。
「お嬢。俺は物貰ってるから一緒におるわけちゃう。」
指先から、温度が伝わってくる。
ゾムの言葉で、Aは自分が無意識に物で人を繋ぎ止めようとしていることに気付いた。はっと胸が熱く、突如息を吹き返したかのように動き始める。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時