カツアゲ ページ33
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「ちょっと貸してくれるだけでいいんだ!ねぇ、持ってるでしょ?」
じり、と距離を詰められて、顔を引っ込める。そうしたら、後ろにいた不良と距離が近くなって、それも怖くてAは亀みたいに首を引っ込めた。
「あ、の、本当に、ないん、です⋯⋯。」
Aがそういうと、不良は途端に顔を険しくし、睨みつける。怖い顔をして、一歩踏み出すように距離を詰め、低い声で怒鳴った。
「嘘ついてんじゃねぇよ!さっき財布の中見えたんだよ!」
ビクリと肩を跳ねさせたAの腕を掴む。不良は、腕を力強くぐいと引っ張ると、転けそうになるAを狭い路地へと引きずり込んだ。その拍子に、ソーダアイスが手から落ちていく。
怖い。Aは、怖くて声も出なかった。大事に使うって言ったのに。さっさと渡した方が良かったのかな。ひとりのときに限って。声の代わりに、恐怖で涙が滲む。掴まれている腕に爪がくい込んで痛い。ぐいぐいと引っ張られるままに進んでいくと、突然腕を引いていた男が止まった。
「邪魔なんだけど。そこどけよ。」
イラついた声で、何かを威嚇するように言っていた。誰でも良いから助けて、そう言いたかったけれど、声が出ない。腕は掴まれていて、後ろは男ふたりが逃げ出せないように退路を塞いでいる。
「あー、はいはい⋯⋯。」
え、と顔を上げる。向かい側から聞こえたその声は、低くて怒りが滲んでいて、それでいて、聞いたことのある声だった。
引っ張られて、つんのめりそうになりながら目の前の人とすれ違う、そのとき、Aの腕を掴んでいた手が離れた。そして、次の瞬間、気付いたときには狭い路地のザラザラとした凹凸の多い壁に男が叩きつけられていた。
目の前にきた人の顔を見た。それは、見間違えるはずがない。ゾムだ。
ゾムは、はぁ、と息を漏らし歪に笑った。ゾクリと背中が粟立つ感覚。チリチリと肌を焦がすような鋭い視線に、思わず腰が抜けた。立っていられなくて、汚れるのも気にせず座り込む。
一人たりとも逃がすまいとゾムの鬼神の如く暴れる様は、恐怖という言葉では表現しきれず、おぞましいと感じるほど。逃げ出そうとする男の胸ぐらを掴み、ボロボロの歯で許しを乞うても、殴り続けていた。蹴って、壁に叩きつけて、再起不能になるまで痛めつける。それは、まるで蛇が獲物を絞めあげるかのように。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時