三日月 ページ25
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長い縁側で背を向けて、前を進むシャオロンに、Aがそれってどういうことなんですか、と聞こうとしたその時だった。
「わっ⋯⋯!!」
ぐい、と後ろからものすごい力で引っ張られ、浮遊感に襲われる。なんとか足をバタバタと動かして体勢を立て直そうとするのに、縁側の床は滑りやすく、一切抵抗出来なかった。もう少しで転んでしまうというところで、ふと真っ暗な空間へと景色が変わる。
視界が急に暗転したから、目が慣れなくて何も見えない。Aが目を凝らしてみても、昼だと言うのにそこには一切光がなかった。何が起こっているのか理解が出来なくて、背筋をヒヤリとした汗が伝う。
どこからか、パチンという無機質な音がした。その三秒後くらいにジジ、ジ、プツン、という音と共に人の顔が分かる程度の薄暗い照明がつく。
「ひぃっ⋯⋯!?」
そこに居たのは、今最も会ってはまずい人物。フードを被っていて、薄暗いせいか全く表情の読めないその人は、もちろんゾムだった。慌てたAが逃げ出そうにも、そこは物置部屋らしき暗くて狭い空間で、入口はゾムに塞がれていて、逃げる隙が少しもない。
ギリギリ見える照明の下で、口の端が吊り上がり、真っ白い歯が浮かび上がっているように見えるから、笑っていることが分かった。
「そんなに俺の事調べて楽しかった?」
ガクガクと、膝が震えているのを感じる。Aが刑事気取りで行っていた聞きこみ調査は、こっそりバレないようにしていたはずなのに、ゾムの口ぶりは全て知っているぞとそう言いたげなものだった。窓がなく、風の通りもない部屋のはずなのに、寒気がする。
「なんで俺の事調べてたん?」
ゾムはずい、と近づいて言った。三日月のような口の端っこから、音が漏れているような喋り方だった。まずい。避けるように一歩後ろに下がると、がん、と音を立てて大きな箪笥のようなものに頭をぶつける。すぐ冷やさないと、タンコブができるかもしれない。しかし、今はそんなことを気にしている場合じゃなくて、どうにかして誤魔化さなければならないのだ。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時