普通の ページ22
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ふたりは、玄関口にぽつんと置き去りにされた。コネシマを見送ったゾムがAの方へ向き直る。
「はぁ〜あ、俺らこんなに仲良うやってんのに。」
残念だ、心外だ、と言わんばかりの表情で、当てつけのようにそう言った。ご丁寧にもやれやれと肩を竦め首を振る雄弁なボディランゲージ付きで。
「何も言ってない。」
Aはムスッとした表情を作って、怒りますよアピールをした。大抵の人なら、ここでもう引き下がる。しかし、目の前の相手は厄介で、大抵の人には含まれないらしい。
「でも、俺の悪口言おうとしてたやん。」
Aは最近気付いたことだが、ゾムは動物的勘というのだろうか、何かを察知してそれに対処するスキルが高すぎる。こういう無駄な場面で発揮してもらわなくても良いのに。
Aがそこから何も言わなかったら、ゾムはふぅん、と口元だけで笑って満足そうに家の奥へ入っていった。
もう見慣れてしまったファンシーな畳部屋に黒鞄を放り投げる。まだ眠気はないというのに、やる気が一切出なくてベッドに倒れ込んだ。
何かで勝負していたわけじゃないのに、なんだか負けたような気分。ゾムと対峙する度に揚げ足を取られていたり、力でねじ伏せられたりしているのだ。そりゃあ、Aだって少しくらい嫌な気持ちになる。聖人でもなければ右の頬を打たれたからって左の頬を差し出すような信心深い人でもない、普通の女子高生だから。
「よし、決めた。」
静かな部屋でひとり、決意を口に出して確認する。Aの心は、密かに闘志で燃えていた。やられっぱなしなんて、良くない。一刻も早くゾムの弱点を掴んで、この状況をひっくり返し、何としても一矢報いてやるのだ。弱みの一個や二個くらい、誰にだってあるはず。それを握った暁には、意地悪なんてさせないようにするんだから。
ふふふ、という悪い笑い声を、部屋に並ぶぬいぐるみたちだけが聞いていた。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時