プロローグ ページ1
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ガタンゴトンと揺れる列車にあやされるがまま、意識が朦朧としていた。ガコンッと一際大きな揺れが、船を漕いでいた頭をそのまま窓に打ち付けさせる。
「痛い⋯⋯。」
うんと田舎から出てきたものだから、列車に乗るのは初めてで、最初の十分はひとしきり外を眺めて胸を高鳴らせていたものの、昨晩なかなか寝付けなかったのが祟ったようだ。その後は眠気でうつらうつらしてしまっている。
国語の教科書に載っているみたいに、本当にガタンゴトンというオノマトペが相応しくて、一定のリズムで刻まれるそれは緊張している心臓を安心させた。
ほんのりと赤くなったおでこをさする。数年ぶりに父親に会うというのに、タンコブがおでこに鎮座している状態というのは、あまりにみっともないからだ。幸い、数分もすれば痛みも赤みも引いて、つるんとした卵のような丸いおでこに元通り。
ふう、と大きく息を吐いた。顔も覚えていない父親に会うのは、正直気が重い。
列車に二時間ほど、それから乗り換えて新幹線にも四十分くらい。長距離を移動するのはそれなりに時間がかかる。慣れない移動に道中何度も心が折れそうになった。それでも、高校もない田舎に住み続けるくらいなら、都会に出るほかないだろう。
唯一の心残りがあるとすれば、祖母と離れるのはやはり寂しい。
Aは上を向いて再び大きく息を吐いた。有名な歌にもあるように、涙がこぼれないようにするために。
新しい靴は新しい所へ連れて行ってくれる。祖母がそう言って買ってくれたスニーカーは、地域にひとつしかない靴屋の何年か前に発売されたものを買ったのだけれど、祖母が綺麗に磨いてくれたおかげでピカピカだ。
淡い不安に包まれながら、数時間新品の靴と列車に揺られ過ごした。
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作者名:月出里 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2024年3月12日 22時